夏の空を仰ぐ花
「どうする?」


小さく笑って、補欠の指が涙をすくった。


「へ……?」


「今度の日曜日。どこ行こうか」


グズグズと鼻をすすって、しゃくりあげながらあたしは答えた。


「……宇宙」


無重力の世界に行ってみたい。


ふわふわ、なにも考えずに、何も無い世界を漂ってみたい。


「……なんて、嘘。補欠の行くとこについてくよ、あた――」


言いかけた言葉を押し込むように、突然、補欠のキスにふさがれた。


心臓が爆発するんじゃないかと不安になった。


尋常ではないほど激しく脈打つ胸を手で抑えた。


深い深いキスを落としながら、その手を補欠が掴んだ。


息なんてできなかった。


呼吸をする余裕なんてまるでなくて、というよりも、あたし自身が呼吸の仕方を忘れていたのかもしれない。


頭がぼんやりしてくる。


本当にもう、どうなってもいいと思った。


蜂蜜、ガムシロップ、練乳、粉砂糖。


例えば。


世界中の甘味を全部集めてミキサーにかける。


それを一気に飲みほしたくらいに強烈に甘ったるくて、喉が焼けてしまうんじゃないかと心配になるくらいに甘ったるいったらなくて。


あたしは、まんまと溺れてしまった。


あたしと補欠が唇を重ねる真横を、ゴロゴロとボールが転がって行く。


なんというまったりとした幸福感なのだろう。


深いキスのあと、補欠が囁いた。


「宇宙、かあ」


そして、あたしに返事をさせる間も与えず、再びキスでふさいだ。
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