夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
この手が長く長く伸びて、ここから届かないかな。


補欠に。


うん、でもなく、ううん、でもない、微妙なニュアンスの声が返ってきた。


「ああ」


ライトアップされた水槽の中は本当に幻想的で、吸い込まれそうになる。


「あたしはもう、見つけたよ。補欠のこと」


「……え」


「もう、けっこう前から見つけてるんだけどね」


補欠はイルカばかり見つめて、あたしに気づく気配もないけどね。


「あたしのとこから、丸見えだからさ。補欠」


「は? 何、どういうこと? どこに――」


突然、補欠の声がフツリと途切れた。


優しい視線が上から下へ、ゆっくり降りてくる。


目の前を通過した1頭のイルカを、もう1頭のイルカがすぐに追いかけて行った。


「……あ」


あたしを見つけた彼の目が、一瞬、大きく見開かれた。


次の瞬間、くすぐったそうに笑って小さく右手を上げた補欠の声が、静かに耳を通過した。


「なんだ、こんな近くに居たのか。良かった、居てくれて。あー、まじ助かった」


やっと見つけた、そう言って補欠はにっこり笑っていた。


「さっきはごめんな、翠。おれ、話し込んじゃって。悪かったな。でも、急に居なくなるのはやめてよ」


「……うん」


しばらく沈黙のまま、あたしと補欠はガラス越しに見つめ合った。


スイスイ、イルカが泳いで行く。


青く白く、輝く大海原の切り抜きの中を。


電話越しで、補欠が呟く。


「宇宙、か……確かに。一理あるかもな」


「だろ!」


あたしは補欠から目を反らして、水槽を見上げた。


「宇宙にもいろいろあんだよ。そもそも、宇宙は広いもんだって誰が言い出したのさ。小さい宇宙だってあんだよ」


「哲学だなあ」


補欠がクスクス笑った。


あたし、広い宇宙なんていらない。


小さな宇宙で十分。
< 623 / 653 >

この作品をシェア

pagetop