勇者様と従者さま。
 アーサーは、剣士たちが追跡に向かうのを見送り、剣身の汚れを振り払って鞘におさめた。

 そして気づく。

 こちらを見つめるエヴァ。

 アーサーの言に従って、大人しく見守っていたようだ。

 顔が、真っ青だった。


 …無理もないことだとは思う。

 とくになんの訓練もされていない少女にこの光景はきついだろう。

 魔物も、…アーサーも恐ろしく見えていたはずだ。

 勇者に選ばれてしまったことは彼女にとって不運以外のなにものでもない。

 少しだけあわれになる。

「従者さま…」

「…こわかったのか」

「いいえ!」

 予想に反して、強い答えが返ってきた。


「…いえ、こわくないといったら嘘になります。魔物はこわかったです。だけど、そんなことより、くやしいんです」

「悔しい?」

「…だって、わたし何もできません。勇者なのに…魔王を倒さなきゃいけないのに」

 エヴァが、ぎゅっと手を握りしめた。

「戦えるようになりたい。…従者さまみたいに強くはなれなくても。こんなのいやです…!」


 …見くびっていたかもしれない、とアーサーは思う。

 エヴァの表情は弱々しいものではなく、むしろ強い意思に満ちていた。


「…仕方ない。あなたはまだ鍛練を始めたばかりなんだ。焦るな」

「…はい」

「今日から厳しく稽古をつけてやる」

 アーサーは微笑んだ。

「は、はい!」

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