勇者様と従者さま。
 食事があらかたなくなったところで、女性が口を開いた。

「さっきはほんとにありがとう。自己紹介が遅れたけど、あたしはカレン。よろしくね」

「わたし、エヴァっていいます。こっちが従者さまで、この子がシュリ」

「…アーサーだ」

 アーサーが諦めまじりに言った。

 シュリが慰めるようにその背中を叩く。

 カレンは面白そうにその様子を眺めていた。


 昼に見たときはどこか悲しげだったが、本来は明るい女性なのだろう。

 はっきりした顔立ちに笑顔がよく似合う。


「そうそう。あたしが逃げてたわけだったね。荒唐無稽な話なんだけどさ、聞いてくれる?」

「ええ、もちろん」

 エヴァが頷いた。

「あのね、あたしには…なんていうかさ、恋人がいるわけ」

 頬を染める様子から、幸福感が伝わってくる。

 エヴァの相槌にも熱がこもる。

「えーっ、素敵です!」

「…エヴァ様」

 盛り上がりはじめたエヴァをアーサーが窘めた。

「いいんだよ、仲がいいのは本当だし」

 カレンもさらりとのろけるが、すぐに表情を曇らせた。

「だけど…あたしの恋人は、急にいなくなったの。それもただいなくなっただけじゃない」


 悲鳴のような、言葉だった。

「最初から、いなかったことになってるんだ…!」


 流石のエヴァも言葉を失った。

「ど、どういう…」

「…街の誰もあの人のことを知らない。幼なじみも、親兄弟も。そんな人間いないって言うんだ…しまいにはあたしの気がふれたんじゃないかって」

 切れ長の目の端に、涙が浮いていた。

「…だけど、あの人だけじゃないんだ。何もかもおかしいの。…父さんも、親友も同じように消えた。親友の婚約者があたしの婚約者ってことになってる…」

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