勇者様と従者さま。

う、嘘…ですよね…?

「う、嘘…ですよね…?」


 明るく優しいカレン。

 笑顔の似合うカレン。

 涙を流していた、カレン…


「あのカレンさんが偽物だって言うんですか!?そんなわけ…」

 思わず声が高くなったエヴァを、アーサーが抑える。

「…シュリの話を聞こう」

「…実のところ、我にもあの娘がどこまで魔物と同調しているかわからぬ。ただ…あの娘の精神はかなり残っているはず。朝見ていたが、よこしまな気配はほぼ感じられなかった」

 エヴァは複雑な顔で黙り込む。



「…ついてこい」

 ふいにシュリが立ち上がった。

「え…どこへ!?」

「上に行く」



 ――言葉通り、行き先は<上>だった。


「ながっ…」

 エヴァは階段のあまりの長さに弱音を吐く。息が切れはじめた。

「エヴァ様、喋って無駄な体力を消耗するんじゃない」

 アーサーもうんざり、と言った様子である。


「なんだおぬしら、若いくせにだらしのない」

 シュリが呆れたように言うが、

「精神体が言うな!」

「シュリの本体はわたしの腰にささってるじゃないですかあ!」

 聖霊なのをいいことに、体を浮かせて上っているシュリである。


 確かにその階段は長い。

 街で一番高いであろう時計台の天辺まで上ろうというのだから当然といえば当然だが。


「…シュリー、わたしを抱えて浮いたりとか出来ないんですかー」

「無理を言うでない。…ほら、そろそろであろうが」


 シュリの言葉通り、階段の終わりが見えていた。

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