ホワイト・メモリー
cc.
功の会社には、功と同じ苗字を持つ社員がたくさんいる。なんだか血がつながっているようで気持ち良くない。そうはいっても、小林という苗字は、全国でもトップ10に入るほどメジャーな苗字なのだから仕方がない。
実は、この会社では、同じ小林でも「小林」と呼ばれるのは、おそらく功だけである。少なくとも功が把握している限りでは、そうである。したがって、「小林」と呼ぶと、数人の人間が振り向くといった光景は、この会社では見られない。功だけが振り向くのである。それはなぜかというと、他の小林は下の名前で呼ばれるからである。朋ちゃんとか、三ちゃんとか、この会社の小林の多くは親しみやすい性格のようだ。
要するに、功が下の名前で呼ばれないのは、近寄り難いキャラクターゆえである。他人は、功と接するとき、下の名前で呼ばないことで功との間に一線を引く。功も下の名前でなんて呼ばれたくないと思っている。お互いのニーズが満たされているのだから、それでいい。むしろ、小林という名を我が物顔で名乗ることができるのだから好都合である。
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