死神と少女
なんで、って…。
俺にはわからねえが、大抵の人間は死ぬのを怖がるもんだろ?


「あたしは7歳のときからずっと此処にいるの。外に行きたくても窓から眺めるだけ。誰かと喋りたくても此処には気難しい大人ばかり。」


女は淡々と言葉を紡ぐ。


「それに治らないことなんて、とうの昔に知っていたもの」

「じゃあ未練はないな」

「あ」

「なに」

「未練ある」






「恋…してみたい」



その消えかけの命でか?

俺は危うく喉まで出かかったその言葉を飲み込んだ。

女はすぐに笑いながら言った。「冗談だよ」
口角は上がっていれどもその眼は悲しそうに淀んでいた。





「あたしは今日死ぬの?」


俺は何も答えなかった。

ただ、窓から出て行った。
後ろから女が呼び止める声がした気がしたが 俺は振り向きもせず、ただひたすらに病棟から離れた。


死を受け止めている、と。
怖くなんかない、と。

あんな人間初めてで。
その笑顔が俺の脳裏に残酷に焼き付いた。

あんなの狩れやしない。





「あーあ行っちゃった」

あなたと恋してみたかったのに。

少女の呟きは誰に届くわけでなく、病室に虚しく響いただけだった。



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