桜色を覚えた絵
普段から自然を慈しむ嗜好がないのに日本人だからなのか、どういう理由か桜は飽きない。
もうここにきて二時間以上経つのに、どれだけ情緒豊かに地球と向き合っているのか。
それでも、なぜか桜に惹かれてしまい、『そろそろ帰ろうか』という言葉は出てこないから、
結衣たちはやっぱり桜が大好きなのだろう。
周りに居る知らない人たちも帰る気配がない。
「きれー……」
「うん、」
桜を前にすると、ちっともいつもの自分たちらしくなかった。
ピアスを揺らすから耳がざわめく強さのある風に黒い髪を靡かせて、覗いた瞳は太陽のせいか光っていて、
美しさに翻弄された唇は開いていて、恋人は普段よりも凄く凛々しい存在に見えた。