BLUE HEARTS
午後13時32分何秒。墨白駅北口にて。空は青。風は休暇。気温はご機嫌。
駅前のロータリーでは、タクシードライバーがたばこ片手に談笑し、隣接する喫茶店からは、コーヒーとパンの香りが客引きをしている。
いらっしゃい。いらっしゃい。
「ごめん春海君。お待たせ」
ちょうど踏切が鳴り止んだ頃、門脇優花が声を掛けた。
よほど急いで来たのか、門脇優花は恥ずかしそうに寝癖を直している。
ファッションに疎いなりに今日の門脇優花を伝えるならば、そう『ふわっ』と。これに尽きる。駄目かな。
「いくらやっても寝癖が直らなくて。変だよね」
「周り見てみなよ。笑ってる」
「もう、意地悪。じゃあ行こ」
眉根を寄せる姿も微笑ましく、俺は門脇優花の隣を歩いた。
建物。看板も。信号機も。見慣れたはずの街もどこか新鮮に思えてね。きょろきょろと恥晒しもいいとこさ。
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
まるで時間が停止していると錯覚するかの沈黙。
「どうしよう」と不安が蠢き、緊張や恐れが螺旋を描く。
天使の俺は「頑張れ」と。悪魔の俺は「けらけら」と。
他人事かよ、まったく。
「あの、さ」
「ん?」
ようやく回転した歯車。
さて、どんな言葉が出るのやら。
「い、いい天気だね」
「え、う、うん。そうだね」
恥晒し。