君のためにできること
第七章
代々木にある、学生用の小さいアパートの二階。
ワンルームのみの激安物件が僕の寝処だった。日当たりが良好なとこだけはこの物件のよいところで、僕はそれだけで結構気に入っていたのだが、夏のこの焼けるような暑い日差しだけは辛かった。その日差しは僕の躰すら溶かしてしまいそうなくらいだ。

でもあの時の僕には、できればこの躰を跡形もなくその熱で溶かして欲しいとさえ思っていた。僕は消えてしまいたかったんだ。ドラッグで蝕んでいく僕の躰は、見るからにやつれていった。

そんな容姿で大学にも行けないでいた僕は、大学をさぼり始めて、君とはもちろんのこと、恭介や朱里にも会うことも止め、メールや電話すらも無視していた。

あの時の僕に、唯一手を差し伸べてくれるだろうと思っていた彼女ともあれからずっと会えずにいた。何度彼女の自宅を訪ねても留守みたいで、電話もつながらず、メールも何通送っても返信なし。
僕はただひたすらに孤独を感じていた。眠れぬ日々、幻覚すら見始める僕の狂い始めた脳。僕は自分の存在すら否定しそうになり、終いには、自らを傷付き始めていた。傷つけることでしか自分の存在を感じられなくなってしまった。
僕は自らの血をみることで生を感じていたんだ。それが生きている証となるように…。

そんな今にも発狂しそうになるくらいの日々が続いた後、やっと彼女からの連絡があった。それは、少し涼しげに感じる満月の夜のことだった。
僕が幾度も幾度も送ったメールの返信として届いた一通のメール。件名には”Re”のみ。しかし、本文をみた瞬間、僕は靴を履き間違えるくらい急いで彼女の自宅に向かった。


メールには、”HELP”とだけ打ってあったんだ。
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