月の下でキスと罰を。
「ほら、雪が降ってきた」

 瀬良の静かで優しい声がした。あたしは返事をする。瀬良には聞こえてる、きっと。

 四畳半の工房の窓から見える、灰色の景色には、白いものがチラチラと舞っていた。その色は、まるで工房のあちこちにある手足や顔の色のよう。

 瀬良は、18歳の時にあたしを作った。まだ無名だった。

 瀬良が住む、古い一軒家。その中にある板張りの四畳半の工房。狭いけれど、そこにあたしは置かれている。

 瀬良。あたしを作り、命を吹き込み、愛す若い人形師の男。

 暗い表情と青白い顔色、瞼にかかる黒髪もまるで悲しさを隠すようにしてそこにあるようで、瀬良はいつも陰気な雰囲気を張り付かせていた。でも、ドール達に負けない程に整った顔、きめ細かい肌にあたしはうっとりしてしまうのだ。

 似ているかもしれない。作り出される人形達は、瀬良の顔に。

 工房では、瀬良が好きな歌がいつも流れている。悲しいような切ないような、でも心を昇らせるような、声だ。


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