月の下でキスと罰を。

 若き天才人形師。瀬良はそう呼ばれた。

 元より、派手さを瀬良は好まない。だから来客も、受ける「しゅざい」も多くはなかった。でも、人目を引くその容姿と雰囲気が、一人になることを許さない。

 あたしはまた、彼の薄暗い家で暮らすようになる。

 四畳半の工房の片隅で。

 瀬良は再び一人で家に居るようになり、主に人形を作る生活に戻っていた。

 蘭子の姿を見なくなった。代わりに、瀬良は顔が細くなって痩せてきていた。あたしを、蘭子の所から持って来ちゃったから。売ったのに返して貰ったから。またお金の無い生活に戻ってしまったんだね。

 痩せていく瀬良を見るのは少し悲しかったけれど、一緒に居られる幸せは何にも代え難かった。あたしは満たされていた。


< 31 / 88 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop