ブルーローズ ~私が死んだ理由~
 「ちょっと、あっちで話しませんか? 実は何度もあなたを見かけた事があって、今も後ろ姿でそうかなと思ったら、やっぱりそうだった。前から1度、話してみたかったんだ」
 男は以前、近くのショッピングセンターに勤めていたという。私も家が近くだから何度か買いに行った事はあるが、せいぜい月1・2回で、滅多に外出しない私を何度も、それも里奈と母にしか言われた事のない後ろ姿を指摘され、驚いた。
 「彼氏はいるの?」と聞かれ、先の展開は読めたが、見ず知らずの男に危機感を抱く一方で、私もその寂しさからか、男の質問には次々とバカ正直に答えてしまい、気付けば、名前・年齢・家族構成から家族との仲まで洗いざらい話していた。興味深そうに次々質問してくる彼が、同じように何でも話を聞いてくれた里奈に重なって見えて、自宅を特定するヒントまで与えてしまった事に、全く気付いていなかった。
 男は我が家の家族構成を知るなり、「じゃあ、70才くらいか」と呟き、反対に自分の事も教えてくれた。年は亡き父と同じ33才、やや濃いめのハッキリとした顔立ちで、見ためはなんとなく父に似ていた。
 辺りに人影はなく、ドライブの誘いこそ断ったものの、男は行き先を告げぬまま、私の手を引いてどこかへ連れて行こうとする。急に不安になり、私は勇気を出して行き先を尋ねた。男が私を連れて行こうとしていたのは、同じ公園内にある海に面した恋人向けのスポット。そこから50mほど手前のスケボー広場には若者が数人いたが、この後、何が起きても自分は助けを呼ぶ事さえ出来ないんだろうなと思った。
 途中、「迷惑だったら、アレだけど…」と男に聞かれたが、不安を感じつつも、完全に拒絶する事が出来ない。家族以外と話をするのは久しぶりだったし、自分に好意をもってくれる男性と、こうして手を繋いで歩く事にずっと憧れていた。
 「別にいいけど…」
 それは、話をするだけならかまわないという意味だったが、男の方はそうは思わなかったようだ。
 目的に着いた途端、男は豹変した。
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