秘密


恭介さんは車の運転席の窓から。


「お土産はいいからね?」


…お土産…買ってこなくちゃ…


「はい。シロお願いします」

「うん♪じゃ、気をつけて行っておいで、バイバイ」

「ありがとうございます、行ってきます」


恭介さんの車を見送り、部屋に戻ると、佐野君は着替えを済ませ、パソコンを開いていて。


「今日ここに行くから」


パソコンの画面を私に向けた。


そのテーマパークは私達の住む街と、佐野君の実家の丁度中間位の県境にある、わりと大きな遊園地。


「あ。ここね?小学生の時以来だなぁ、ふふふ、楽しみ」

「土曜の夜はパレードもあるみたいだし、俺、ここ行った事無いんだよ」

「え?無いの?」

「うん。あんまそんな所で遊んだ事無いから、はは」

「遊んだ事無いって、遊園地位行くでしょ?家族とかで」

「うんと小さい頃はあったけど、休日はバスケ三昧だったからな…」

「……そうなんだ…」


最近バスケの話をする佐野君は、何処か遠くを見ているみたいで、側に居ても遠くに感じてしまう時がある。


そんな時私は佐野君の見つめる先が物凄く不安になる。


側に居たい、でも……


ただ側に居るだけじゃ何にもならない。


だから決心して勇気を出そうと思ったのに、その決意もあっさりと砕けてしまって。


お父さんにまで裏切られたような気がして。


佐野君まで遠くに行ってしまったら……


私は卑怯だ。


佐野君の気持ちに応える事も出来なくて。


佐野君の心と自分の身体を使って、必死に佐野君を繋ぎ止めようとしてる…



「さ、行くか?」


パタンとパソコンを閉じる佐野君。


「…うん」


アパートを出て久しぶりの佐野君のバイクに乗ると、私にヘルメットを被せてくれて。


バイクに股がりキーを回し、エンジンをかけて佐野君は振り向くと。


「しっかり捕まって」


背中にぴったりと張り付き、ギュッとしがみつく。



しっかり捕まってるから。


何処にも行かないで…


…………佐野君。





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