秘密
コートの中を走る佐野君の姿はまるで水を得た魚のようで。
鮮やかなボール捌きも、走る姿も、誰よりも高く飛ぶ姿も。
そこだけにか存在しないかのような特別なものになる。
佐野君がバスケットを好きなんじゃなくて、バスケットから佐野君が好かれているんじゃないかとさえ思えてくる程で。
その動き、ひとつひとつにボールは流れるように反応して、まるで佐野君を中心に、コートの中でバスケットと言うゲームが組み上げられていくよう。
ああ……
やっぱり佐野君はそこがいちばん似合うね。
……とても、綺麗だよ。
あれ?
しっかりと見ておかなくちゃいけないのに。
視界が、ぼやける……?
「かなちゃん?どうしたの?」
「え?…」
「泣いてる、具合でも悪いの?」
泣いてる?
「あ……、ホントだ、涙?…え?何で?」
「何でって…、大丈夫?かなちゃん」
「あはは、大丈夫大丈夫。何でかな?疲れたのかな?」
心配気に私の顔を覗き込む美樹ちゃん。
「ここ、蒸し暑いからかな?気持ち悪い?」
「ううん、大丈夫。ちょっと、顔洗ってくるね」
「そうだね、風にあたったほうがいいかも、着いていこうか?」
「ううん。ひとりで平気だから、美樹ちゃんは試合見てて」
私はステージからピョンと飛び降りて、体育館横の水飲み場へと向かった。
蛇口を捻ると、シャー、と音を経てて勢いよく水が流れ出す。
「……うっ…」
流れ出す水と同時に私の瞳からも一気に涙が溢れ出す。
「ふっ…、うぅっ…」
………ちゃんと。
佐野君の事を見ていたいのに……
見てなきゃ…、いけないのに。
「ふえっ…、うぅ〜…」
蛇口に手を掛けたまま、力が抜けてしまったかのようにその場に崩れ落ちる。
「ふっ…う…」
泣いちゃダメだ。
泣いちゃダメだ。
必死に自分に言い聞かせるけど、自分の意思とは裏腹に、一向に涙は止まってはくれない。