秘密


「うん。おばあちゃん、そのおばあちゃんの結婚指輪がそれなの」


佐野君のおばあちゃんの結婚指輪……


「わたしの結婚式の時にもその指輪、付けて上げたのよ、だから、奏ちゃんに貰ってほしいの」


……そんな大事な指輪。


「ダメです……、頂けません…」


私は指輪を外すとそれを箱の中にしまった。


「あら、そんなに重苦しく考えないで?」

「いえ、そうじゃないですけど…、私まだ高校生だし…そんな先の事なんてわからないし…結婚とか…」

「それは当然よ、ごめんなさいね?わたしったら、奏ちゃんが大好きだから、そうなってくれたらいいなって……」


………お母さん…


「わたしとお父さんが出逢ったのも、今の奏ちゃんと同い歳だったじゃない?
なんかその頃と重なっちゃって……
でもね?これはお礼でもあるの」

「お礼……?」

「奏ちゃんが茜を立ち直らせてくれたから」

「私が?佐野君を?」

「昨夜ね?茜が静に言ったらしいの…、またバスケがやりたいって」


お母さんのその言葉に私の心臓に一瞬、キュッと痛みが走る。


………佐野君。
決めたんだね……、アメリカへ行く事を。


私はなんだか身体中の力が抜けてしまった。


何自惚れていたんだろう?佐野君は私なんか居なくても、きちんと考えていたんだ……


「あんなにバスケから遠ざかる事はがり考えていた茜が、またバスケがやりたいって…、全部奏ちゃんのお陰よ?ありがとう」

「……お母さん、私は何もしていませんよ」

「ううん、奏ちゃんが居たから茜は家にも帰ってくるようになったし、辛い過去にも向き合って、それを乗り越える事が出来たの。

もう茜は大丈夫。

だから奏ちゃん?」


お母さんは私を真っ直ぐに見つめて、優しく微笑むと。


「茜が遠く…、離れてしまっても…、この家は奏ちゃんの家でもあるの。だから、寂しい事なんかないわ。

いつでも好きな時に帰ってきていいんだから。

先の事なんてわからないって、わたしだってそう思う。

でも、茜は奏ちゃんが思ってる以上に奏ちゃんの事が好きな筈よ。

だから、何の心配もいらないわ。
この指輪はその約束の証しでもあるの」



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