秘密
「……何言ってんの?奏」
佐野君は自虐的に笑っているようにも見える表情で、私を見下ろして。
「俺は元々こんなヤツだよ。女取っ替え引っ替え、来る者拒まず。去る者追わず。今まで何人と付き合ったかなんて、いちいち覚えてなんかないんだよね?ははは。俺ってさ、モテるだろ?だから…」
だんだんと佐野君の表情は曇っていく。
「……奏が、どんな風に俺の事を思っていたかは知らないけど、サイテーなヤツなんだよ。俺は…」
私は肩を震わせながら、流れていく涙を拭う事すら忘れてしまっていた。
「素行悪いし、頭も悪いし、女グセも悪いし……、唯一、顔はだけはいいかな?ははっ」
そんな私を佐野君はじっと見つめたまま。
「だから……、俺の事なんか、思い出す必要なんかない…むしろ、思い出さない方がいい…」
そこまで言うと佐野君は。
「やっぱりヤらしてくれないか、ま、わかってたけどね?ちょっと残念。ははっ」
急に明るい口調になって、私から一歩身を引いた。
「泣かせてごめんね?もう奏の前には姿見せないからさ。許してよ」
くるりと踵を返して私に背中を見せた。
「……さよなら……奏…」
一言そう告げると佐野君は、そのまま病室から姿を消した。
私は力が抜け落ちてしまったかのように、その場にがくんと膝をつき、こぼれ落ちる涙を止める事が出来なくて。
ポタポタとパシャマの膝に、涙の滴が幾つものシミを作っていた。