秘密
「…奏、さっきの授業のこの問題なんだけど…」
俺は奏の机に椅子を寄せ、ノートを開いて見せた。
『風邪引いたの?大丈夫?』
「…あ、ここはね…」
奏が俺のノートに書き込む。
『昨日少し寒かったかな?でも大丈夫、熱もないし、元気だよ』
「…ふぅ〜ん…そう言う事か…じゃ、次の問題は?」
『少し目も腫れているみたいだけど?寝不足?無理しないで早退したら?』
「……次はね…」
『大丈夫だって、佐野君心配し過ぎ、私こう見えて結構丈夫なんだよ?』
「…そうか…なるほどね…それと、ここは?」
『昼休み、視聴覚室、来れるなら来て』
「…奏っ」
机の上で頭をくっ付けている俺達に、廊下側の教室の窓から奏を呼ぶ声がして、奏は慌てて頭を上げた。
「……佑樹…」
佑樹の名を呼ぶ奏のシャーペンを持つ手が、微かに震えていて、書きかけの字がカタカタと波打っていた。
そりゃ驚くよな?
浮気相手と話してる所で、不意に本命の彼氏から呼ばれりゃな…
…はは、くそ。佑樹め。
…いつかお前から奏を奪ってやる。
と新たに決心を固める俺。
奏は立ち上がり、窓の方へと向かう。
こちらに背中を向けて、窓越しに佑樹と会話する奏。
見たくなくてもつい、目が追ってしまう。
佑樹は奏のマスクを外すと、奏の頬に触れ、優しく微笑む。
…ちっ。
奏に触るな浮気ヤロー。
3時間目の予礼が鳴り、佑樹は奏の頭を撫でると、手を上げ、「今日も生徒会だから」と言って廊下を歩いていった。
奏は再びマスクを付けて、席へと戻ってきた。
「……彼氏と…仲いいんだね?」
俺は二人のやり取りに何だか妬けてしまって、つい口走ってしまった。
…バカか俺は…
彼氏なんだから当たり前か…はは。
…はぁ。
俺も普通に奏に触りたい。
誰の目の前でも…
「……そう見える?」
奏が何か呟いた。
俺はよく聞き取れず、
「…え?何?」
「…ううん。何でもないよ?」
と言った。
マスクで表情が隠れてて、奏の顔がよく見えないが、その瞳はなぜか俺の目には、泣いた後のようにも見えた。