きみの声がきこえない

陽介の大きい背中の影になった。


陽介の匂い。

男の子の匂い。


会ってからそこまで経ってないのに、

すっかり打ち解けてしまった。


男の子とこんなに早く打ち解けることなんて、今までならありえなかった。

この能力のことがあるかもしれないけど。


きっと陽介の性格のせいだろう。

横断歩道で止まった。


陽介は、ちょっと目を細めて、黙り込んだ。

ぼんやりと車の行き来を見つめる。


「どうしたの?」

「あ、いや…」


陽介はバカみたいに明るいけど、

時々こうやって遠くを見つめることがある。


何だか物悲しげな顔で。


あたしはその瞬間をいつも捉えるたび、気になってしまう。



桐谷陽介ってどんな人?


あたしはまだ陽介のこと、何も知らない。
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