ご主人様に首ったけ!
小さすぎて聞き取れなかったけれど、確かに聞こえた――、

露の声。


露に気配を悟られないようにそっと扉に近づき、耳をそばだてる。


「……さよなら……」


今度は小さいけれどはっきりと聞き取れた露の言葉……。


露を想い、扉に身を預ける。

その一言を最後に、露は僕の部屋から立ち去っていった。


そして、完全に露の気配がなくなったのを確認すると、僕は露の部屋へと向かった。


たった数ヶ月過ごしていた露の部屋。

綺麗に片付けられ、誰もいなかったかのような錯覚に陥りそうになる。


ただ一つ。

テーブルに置かれた1通の手紙を除いて……。


「……」


そっと歩み寄り、その手紙を手に取った。

桃色の封筒にはかわいらしい字で、


『霧様へ』


と記されていて、それを見ただけで露の笑顔がよみがえってくる。


封を開き、手紙を見てみると封筒同様に綺麗な字で書かれた露の思いがつづられてい
た。


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