ポジティブにネガティブ。



死にたい。

と、思い立ってからは早かった。
ふらり、と自宅のマンションの屋上に向かう。
螺旋階段がカコン、カコン、と鳴る。
どこかからカレーの匂いがする。

屋上に出ると、夕日は真っ赤に辺りを照らしていた。

準備なんて大してない。無計画。
とりあえず、フェンスを乗り越える。
運動不足の俺には少し大変だった。

「ちょっと怖いかな・・・というか、思ってたより高いんだな、このマンション。」

少し考える。

死ぬまであと少しなんだ、思い出に浸ってもバチはあたらんだろう。
といっても、いい思い出がないから死ぬのか。はは、馬鹿だな。


この一年は悲惨だった。
いじめと無視ばかりだった。
何故俺がいじめられたのかは分からない。多分理由なんてないんだろう。
いじめなんてそんなもの。

中学二年のとき、クラス替えがあった。
はじめは無視だけで、被害はあまりなかったけど、俺はきつかった。

まるで俺がいないような。

俺はどんどん弱っていった。体育も見学がちになった。休みも増えた。
でも、俺は一応学校に行った。勉強はしないと両親に怒られるから。

そこに漬け込んで、いじめが出てきた。トイレの個室に閉じ込められる、雑巾洗った水をかける、教科書を捨てられる。そんなのがいつもだった。
酷いときは移動教室の時、手首をガムテープで止められ、教室に放置されたことだ。あんときは流石に泣いた。

先生なんて何の対処もしてくれなかった。
所詮俺なんてそんなもの、と自虐した。


「・・・いい思い出とかないじゃんかよ、馬鹿・・・・・・俺の走馬灯とか、どんなんだよ・・・」

「廉っ!!あんた、何やってんの!!」
「お前、そんな所・・・っ!!死ぬぞっ!!」

振り返ると、両親がいた。
母さんは、髪を振り乱して何か叫んでいる。
父さんは、フェンスを乗り越え、俺を止めようとしている。

・・・・・・お陰で死ぬ気なんて失せた。


その後、俺は父さんに引きずりあげられ、母さんに連れられるままに精神科に行った。


__運命の出会いをすることも知らずに。





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