ある人妻の過去
 『私…
  お金借りてません』

私は現れた男に、そう言った。


 「うちは渡辺智子サンに  間違いなくお金を
  貸してますよ!」


カウンター越しに座る男から、1枚の紙を渡された。


そこには、私の名前や生年月日、住所や職場の名前などが書いてあったんだ。


そして、私名義の社会保険証のコピーも…



私の手は震えてた。


 「間違いないやろ?」

男はニヤっと笑い、私から借用書を取り上げた。


私は言葉が出ない。



< 10 / 15 >

この作品をシェア

pagetop