バタフライナイフの親指姫
王様
 王様は、暝い目をした、王様らしい服装をした、王様らしい人だった。

 あたしを見て、ちいさく、おかあさまのお名前を呟いた。

 ―おかあさま…?

 ―あの女が用意したコピーだけあってそっくりだ。

 王様は王様だからなのかあたしの話を聞いてくださらない。

 仕方なくあたしは聞き役に回った。


 ―あの女は稀代の殺し屋だ。そのうえ、サイコパスだった。

 ―綺麗にナイフを使いましたわ。

 ―あの女が作った、自分のコピー、それがおまえだ。

 ―あたしおかあさまには似てないわ。

 ―いいや、そっくりだ。

 それはとてもとても光栄なこと。あたしはくすくすと笑った。

 王様はあたしを見て唇を歪めた。

 ―あの女は殺された。おまえを解き放つために。

 あたしははっと息を呑む。あたしそんなこと一回だって願ったことはなかったけど、それなのにあたしのせいでおかあさまは殺されたのかしら。

 ツバメは一体どんな気持ちでおかあさまを狙ったの。いつからなの。

 ―さすがにあの若造も随分手こずったようだがな。どうだ、自由は。

 ―欲しくなかったわ。

 あたしの呟きを、王様は気に入らない。

 つっとあたしに寄って、あたしの顎を持ち上げた。

 これまでに見たことのない瞳。冷酷で感情がなくて、…あたしを見ていない。

 その視線の対象は、あたしの背後の誰か。

 このひとはおかあさまが欲しかったのね、と思いながら、あたしは目を閉じた。

 唇を割って、ひんやりした金属の塊が入ってきた。

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