キミノトナリ(短編)
「だから、時にはわずかな戒めが『裏切り』と勘違いされてしまう。もしかしたらそれは、甘えなのかもしれないけどね」

分かるかい?と首を傾げた老人に、少女はわずかに唸った。

その姿に思わず苦笑が漏れる。

「自殺する人の気持ちが分からないわけではない。私も長く生きているからね。しかし」

「…しかし?」

きょとんとしたした少女の頭にそっと手を乗せた。

「何故生きるのか、という答えを明確に持っている人は少ない。かといって、失っていいとは思わないだろう」

小さく頷いた少女はわずかに眉を寄せる。

「…でもね、自殺しようとする人は、それが最善だと思ってしまうんだ」

多分、この少女の友人も同じ。

「勘違いとは言わない。それで少なくともその場の苦しさからは逃れられるだろうし、誰かの心に残るだろう」

ふう、と息を吐く老人を少女は上目遣いで見た。

「しかしね、死んで楽になれるなど…生きている人間の浅はかな勘違いだよ」

むしろ、死後のほうが辛いと。

心の中でだけ付け足して。

「そのお友達は運が良かった。尊い命を失わずにすんだ」

まだ若く、世界が狭いまま失われるのは…とても哀しい。

少女の頭に乗せていた手を、撫でるように動かす。

そして、それはゆっくりと降ろされた。

「お見舞いにいったら言ってあげなさい。生きていて良かったと。…一人になろうとするなと」

あなたが、大好きなのだと。

わずかに目を伏せた少女は、老人のカサついた手を握った。

「おじいさん。私は良く分からないけど」

驚いたのか目を見開いた老人に、少女はにっこりと笑った。

「きっと、おじいさんのお友達は…おじいさんが心配してくれていたことを知っていたよ」

ひゅ、と息が吸われる。

「ただ、重さに耐え切れなくて、潰れてしまったけど。…誰かを悲しませることを分かってはいたけど…」

懐かしい、友の姿が浮かんだ。

「…おじいさんの、優しい気持ちは。きっと」
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