それはまるで粉雪のように

―御影家―

「ただいま……」

「あ、おかえり……って、どうしたの?」

健二の母親が居間から出てきた。母親は健二の様子を見て驚きを隠せなかった。

「どうしたのって……何が?」

「いや……傘も挿さずに帰ってくるから……」

「……傘、忘れた……」

「本当に……?」

「あ、あぁ……」

もちろん、健二は嘘をついている。梅雨の時季に傘を忘れるやつなんて、そう簡単には見つからない。

「……シャワーでも浴びたら?」

「……そうする」

健二は雨で濡れている鞄を玄関に置いたまま、風呂場へと走った。

「…………」

その背を母親は心配気な目で見つめていた。

雨はしばらく止みそうにない。
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