甘い涙
 「ミャー。ミャー。」
 鳴きながら、私の手に頭を擦り付ける。
 「猫ちゃん、濡れちゃうよ。」
 仔猫を濡れないようにしようと思うのに、仔猫は、私の周りを忙しなく行ったり、来たりを繰り返してしまう。
 小さな体一杯で、私はここに居るよ、とでも言うように鳴き叫ぶ。
 私、何にもしてあげられないのに…。
 それでもいいと、ただひと時の温もりを求めて、私に甘えてきてくれる。
 心の扉に鍵掛けたはずなのに…。
 仔猫の素直な剥き出しの愛情に、鍵が熔けていく。
 私は仔猫を撫でながら、どうしても溢れる涙を止める事が出来なかった。
 雨に濡れながら仔猫を抱き、むせび泣いていた。
 私は仔猫に〝もも〝と名前を付けた。
 この時から、仔猫は私の一部の様な存在となった。
 辛く哀しい時はそっと寄り添い、お互いの体温で温め合った。
 両親の不仲は相変わらずだったが、ももが居てくれたから、私は生きてこれたのだった。


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