天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(後編)
「すいませんでした」

生徒会室に戻った姫百合を、九鬼は優しく出迎えた。

「いいのよ」

九鬼は微笑むと、息を切らしている姫百合に訊いた。

「最初は帰ったのかと思ったんだけど…あなたの鞄があったから…。どこかに行ってたの?」

「あっ…それは」

姫百合は、口を濁した。

行方不明者のことは、九鬼の耳にも入っていると思うが…自分が、噂のもとになっている喫茶店に行ったことはいいたくなかった。

戦い続きの生徒会長に、これ以上の心配事を増やしたくなかったのだ。

「ち、ちょっと…買い物に」

姫百合は引きつった笑いを浮かべると、机の上にある鞄を掴んだ。

「ほ、本当にすいませんでした。ご心配をおかけしまして!し、失礼します」

そして、頭を下げると、そそくさと生徒会室を出て行った。

「…」

九鬼は止めることなく、姫百合の後ろ姿を見送った。

しばらく閉まった扉を見つめていると数十秒後、再び開いた。

「本当に…そうなの?」

九鬼の問いに、生徒会室に入ってきた中島が頷いた。

「ああ」

「そうよ。彼女は…」

中島の後ろから、相原理香子が姿を見せた。

「魔獣因子の持ち主。まだ目覚めかけだけども」

「そう…」

九鬼は、2人に背を向けた。


その悲しげな背中を見て思わず、中島が口を開いた。

「しかし、目覚めて悪い訳じゃない。人以上の力も持てるし…変幻さえしなければ、人間の姿で入られる!」

中島の言葉に、九鬼は深呼吸すると、答えた。

「求めていない力はいらない。それに、得てして力は…人を不幸にする」

九鬼は振り返り、理香子に向かって言葉を続けた。

「月影の力は、月の女神がつくったこの世界の人間を、やつらから守る為のものだった。しかし、やつらが人間から変わるとわかった今!理香子!あんたは、どうする?」
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