天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(後編)
予想していたよりも、あっさりと俺は、本部内に入ることができた。

(人がつくる建物は、どこか似ているな)

ブルーワルードに来てから、困惑する程の変わった建造物を見たことがない。

それに、凝った建造物もなかった。

基本的には質素で、シンプル。

それは、この世界での人間の地位を示しているように思えた。

外壁を潜り抜けると、円形の建物まで百メートルは離れていた。

(うん?)

円形の建物の扉が、ゆっくりと開いていく。

その瞬間、扉までの地面に、黒い靄のようなものが、煙のように立ち上るのが、見えた。

恐らく、普通の人間には見えないであろう。

俺の脳裏に、妹…綾子との戦いがよみがえった。

(悪霊…自縛霊!?)

そんなことを思いだしていると、扉の中から靄の塊が出てきた。

「な」

思わず口から、声が漏れた。

黒い靄の塊は、両手を広げた。

「君も特別な人間かい?」

黒い靄は、人の形に変わった。

しかし、体から立ち上る黒い煙のようなものは、消えなかった。

(取り憑かれている!?)

それが、俺の印象だった。

「怖がることはないよ。真生防衛軍は、君のような人間をつねに募集している」

黒い靄の正体は、ヤーンであった。

「チッ」

俺は舌打ちすると、走り出した。

(まだ間に合う!)

どこからか、回転する2つの物体が飛んで来た。

それを掴むと、十字にクロスさせた。

(シャイニングソードで、斬り裂けば!)

俺が剣を振り上げた瞬間、耳元で声がした。

(無駄だよ)

(な!)

その声は、アルテミアではなかった。

「赤星!」

今度は、アルテミアの声がした。

「え」

音速をこえた俺の動きを、ヤーンは見切ることができなかった。

視界から消えたと思った瞬間、全身に激痛が走った。

「ば、馬鹿な」

シャイニングソードは、悪霊だけを斬ることができるはずだった。

なのに…ヤーンの体から、鮮血が噴き出していた。

「な、何が起こったああ!あ」

ヤーンは絶叫しながら、崩れ落ち、自らから噴き出す血を止めようとした。
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