天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(後編)
「レーン様」

それは、雪菜もレーンも覚悟していたことだった。

天使になり、人類を滅ぼすならば、そうなる前に、雪菜を殺し、自分も死ぬと。

「雪菜!」

横凪の斬撃で斬り裂いた後、とどめとして胸に剣を突き刺した。

「俺もすぐいく」

「はい」

雪菜は刺されながら、頷いた。

「馬鹿が!」

その一連の動きを見て、ディーンは吐き捨てるように言った。

「余計なことをしなければ、長引いたものを」


「雪菜!」

レーンが剣を、雪菜から抜くと同時に、彼の首が飛んだ。

その動きは、神速を超えていた。

あまりの速さに、三体の鎧は、反応さえできなかった。 ゆっくりと砂に戻っていく。

「お前が殺したのは、人間としての彼女だ」

レーンの首から、噴き出す血を浴びながら、にやりと笑う雪菜はもう、彼女ではなかった。

ディーンは、血塗れの雪菜に跪いた。

「アテネ様。お迎えに参りました。戦いが始まります。」

「わかっています」

雪菜はそれだけ言うと、血塗れのまま応接間から出ていった。

ディーンも立ち上がると、鎧であった砂を踏み締め、応接間を後にした。

「雪菜…」

首だけになりながらも、レーンは意識を保っていた。

そして、最後の力を振り絞り、命じた。

「お前達との絆をとく!新たな持ち主を探し…に、人間を守れ…」

それが、最後の言葉になった。

目を開きながら、絶命したレーンの命を受け、崩れ落ちていた砂が集まり、三体の鎧になると、どこかに消えた。






「まったく、馬鹿師匠は!無事なのはわかったけども!今度は、捕らわれている人々を救えって!理由くらい説明しやがれ!」

毒づくカレンと九鬼は、日本地区の東北を目指していた。

当初はジャスティンを救う為に、四国を目指していたが、突然連絡が入り、まったく別の方向に向かうことになったのだ。

「…」

カレンの愚痴に、苦笑する九鬼は走りながら、突然違和感を感じた。

(砂?)

足元に、砂が巻き付いているような感覚を感じたからであった。
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