Bar フィオーレ


ダークライトの下でキャンドルの小さな炎がゆらゆらと揺れている。
ハロゲンの照明がなにか、白くもやっとした空気の流れを映し
入り口から一番奥のアーチ型に抜かれた壁には、シャンパンのマグナムボトルが堂々と鎮座していた。
バーカウンターには誰も座っておらず、そのカウンター内で一人グラスを磨く男性店主はそのバーの空いた空間を埋めるように、少し大きめのため息を吐いた。

「お客さんこないなぁー」
ぶっきらぼうに呟いたのは彼ではない。
「かなめさん、お客さん連れてきてくださいよ」
「無理です」
かなめさん、と呼ばれたその人は
カウンターの奥にあるキッチンからひょこっと顔を出し、皮肉った笑顔を浮かべた。
全然笑顔でいられる現状ではないわけだが。

「ピンチですねぇ」
店主から発せられた言葉は「ピンチ」という意味とは不釣り合いな、穏やかな声音だった。
「うん」
かなめは口のわきから漏れた煙を追っかけ上を向く。


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