夜をすり抜けて

しばらくすると運転席のドアがガチャッと開き、樹の声が頭の上から降って来た。


「車も荷物も大丈夫だったわ」


普段通りの明るい声…


それからガサゴソと、たぶんシートの後ろの紙袋を探っているのか、顔をうずめたわたしの頭に、ポンとタオルを乗っけた。



「もうしないから」


優しい樹の声がした。


三角座りのままタオルの隙間から
こっそりのぞいていると


「お前ベルトしろ」と怒られた。


その言い方があんまり普通なので、またどっと涙が出る。



何事もなかったように車を出し、樹は運転を再開した。


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