形振り構わず愛をくれ!
ただでさえ、近寄りがたい雰囲気を放つ若の背後に、目には見えない怒りのオーラがほとばしっているようで、私は息を呑んだ。


「失礼します」

息苦しさが増し、より殺伐とし始めた雰囲気を悟ってか。こう言う時に限って、空気を読むのがうまい苑条さんは、そそくさと退出する。

広い16畳ほどの畳の間に取り残された私は、まるで今にも喉元に食らいついて来そうな若の獰猛な瞳に、息を殺してジッと耐えていた。

「ひな子」

珍しく〝ヒナ鳥〟呼ばわりではなく、呼ばれた名前に、ドキリと心臓が飛び跳ねる。

若が私の名前をきちんと呼ぶ時は、決まって〝キレている〟時なのだ。


「来い」

「え、うわ…っ!?」

強く手を引かれ、部屋の外に連れ出されそうになるのに、慌てて鞄をひっ掴んだ。
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