ゆびきり
美智さんみたいなお嬢様は、綺麗なフレンチのお店が似合いそうだけど、あいにく、僕はそういう店は知らなかった。

待ち合わせは、若者に人気な創作料理の居酒屋。

部屋は個室っぽく区切られている。

僕が席につこうとすると、机の上に指輪の箱が置かれていた。

「ありがとうございます。」

僕は箱を見つめながら席についた。


「指輪…彼女に渡したらどうですか?」

もう別れて随分経つんだ。藍ちゃんに渡しても迷惑なだけだ。

「いや…それはちょっと…。」

「この間、話を聞いて…やっぱりこの指輪は…」

「要らないから返されたんだよ。」


僕はそう言って、指輪の箱に手を伸ばした。

そっと手に取り、蓋をつかんでそっと開けた。




!?




「あれ?…」

「たっくん…どうかなさったんですか?」

美智さんが覗き込む。


「え…?」


美智さんをチラッと見つめると

「ごめんなさい。お預かりしてから一度もあけたことなかったんです。」

美智さんは、申し訳無さそうに言う。

「いや…確かめなかった僕が悪いんです…」


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