NIGHT MOON
医師に神田川が倒れたのは
心筋梗塞であり
今夜が峠だろうと言われた。



元々心臓に持病があったのだが
酒も煙草も止めず
病気の事を
隠しながら生きていたのだ。



会わせておきたい人がいれば
連絡をした方がいいと言われたが
神田川は独り身で
親類などもいないらしい。
だが病院に
一人の謎の男がやって来て
神田川の顔を見てから
夜月に声をかけて来た。



「夜月さんですね」



「誰だ、あんた?」



「私は神田川オーナーと親しくさせてもらっている黒田(クロダ)といいます。よろしく」



黒田という人物は
四十代後半くらいの中肉中背の
スーツを着た
一見、真面目そうな男だ。



しかし、どこか影のある
裏の人間の様に夜月は思えた。



「俺に何の用だ?」



「はい。実はオーナーからの言伝がありまして」



「オーナーが俺に…何だ?」



「ここではちょっと……場所を変えてお話出来ませんか?」



「分かった」



「ついて来て下さい」



夜月は黒田の言う通り後をついて行き
場所を変えるため
病院の中庭へ向かっていた頃



一台のタクシーが病院に来た。



「あ、お釣りは結構です」



朱里も神田川が倒れた事を
どこかで聞いた様で
タクシーでやって来たのだ。



急ぎ足で中へ入り
教えられた病室へ向かう途中
夜月の姿を見た朱里は
病室ではなく夜月の方に向かって
歩いて行っていた。



少ししてから
中庭辺りに夜月が見えたので
声をかけ様とした時
朱里はもう一人の人物に気付き
足を止める。
辺りが静かだったので
何を喋っているか聞こえてきた。



人の話を
盗み聞きする悪趣味などない
朱里は病室に戻ろうと
音をたてずに去って行く。



そんな事も知らず
黒田の話は本題に入っていた。
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