桜の花びら舞う頃に
ニット帽の男が走る先、





それは━━━





「げ、原付バイク!」




そこには、エンジンがかかったまま停めてある原動機付自転車、いわゆる原付バイクがあった。

いくら悠希でも、原付バイクと競争してかなうはずがない。



(ならば、どうする!?)



悠希は、自分自身に問いただした。

男と原付バイクとの距離は、みるみるうちに縮んでいく。

悠希に残された時間は、わずかしかなかった。


「くそっ!!」


苛立ちを隠せない悠希は、言葉を短く吐き捨てる。


その間に、男はついに原付バイクにたどり着いた。


その手が、原付バイクのハンドルへと伸ばされる。



「間に合わない!!」



悠希は奥歯をギリッと噛み締めた。

悠希の心の中は、さくらを助けられない悔しさ、無力さ、そして、不甲斐ない自分への苛立ちが嵐の様に渦巻いていた。





その瞬間━━━





悠希の視界に飛び込んで来たものがあった。


それは、絶望の闇に飲まれそうだった悠希の心に一筋の明かりを灯す。




「これだ!」




悠希はそれに向かって駆け出した。








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