桜の花びら舞う頃に

「あ、そうそう!」



さくらは手を振るのをやめ、拓海と同じ視線に腰を落とす。


「た~君……今日のことは、みんなには内緒にしててね」


さくらは人差し指を立て、それを唇へと持っていった。


「え、なんで?」


まさに、キョトンとした表情の拓海。

大きな瞳を更に大きくして、さくらを見つめた。

その両の瞳には、さくらの顔が写り込んでいる。


「うん……他のお友達に、た~君だけ……って思われるかもしれないでしょ?」


さくらはその瞳を見つめながら、優しく諭すように言った。


「うん……そうだね」


拓海は静かにうなずいた。


「他のお友達が、可哀想だもんね!」





もちろん、他の子が可哀想というのはある。

やはり、うらやましく思う子はいるだろう。

そして、それは他の父兄にとってみれば、面白くないことに違いない。


更にもう1つ、拓海のことを考えての言葉でもあるのだろう。

『あの家庭は母親がいないから』と、悲しみや哀れみの目で見られないようにとの配慮。

だからさくらは、人前では拓海を特別扱いせず、他の子と同じように応対してくれる。

それは悠希にとって、本当にありがたいことだった。



(━━━先生って職業は、ホント大変だよな……)



悠希は、つくづくそう思った。







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