桜の花びら舞う頃に
第5話『瞳をとじて』
部屋に戻った悠希は、床にドサッと腰を下ろす。

そして、飲みかけだった缶ビールを握りしめ、それを一気に飲み干した。

しかし、拓海の言葉は頭から消えはしなかった。



「『……ママ……どこにいるの?』か……」



今まで母親がいないことを、不自由と感じさせないようにしてきたつもりだった。

そして、拓海も不自由を感じることなくすごしてくれていると思っていた。

しかし、それは心を押し殺した拓海の優しさであって、本心はやはり寂しかったに違いない。

そう思うと、とてもいたたまれない気持ちになってくる。



悠希は2本目のビールに手を伸ばす。


そして、過去の日に思いをはせるのだった。


良く晴れた、あの日曜の午後のことを……


何気ないことが幸せだった、あの時のことを……




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