桜の花びら舞う頃に
席についたエリカは、まず飲み物を頼んだ。


兄を目の前にした緊張のため、喉は砂漠のようにカラカラである。


運ばれてきたミネラルウォーターを一気に流し込むと、ようやく気持ちも落ち着いてきた気がする。


そんなエリカを冷ややかな目で見つめる兄。

全てを見抜くような鋭い目に、長く伸ばされた黒髪。

そして、細身だが筋肉の付いた体。

それがエリカの兄、龍一の風貌だった。


一目で上質で高価なものだとわかるスーツに身を包む龍一は、クールという言葉が似合い過ぎるくらい似合っていた。





そして、テーブルにはもう1人、男性の姿があった。


エリカのちょうど正面に座る男性。

龍一と同じようにスーツ姿だが、こちらは温かみを感じる。

優しそうな瞳が、そう思わせるのかもしれない。




(まぁ……お兄ちゃんと並べば、地獄の鬼だって優しく見えるんだろうけど……)




「もう……いいか?」



龍一は静かに口を開く。


「は……はい、ごめんなさい!」


心を見透かされたのかと思い、エリカの心臓は強く脈打った。







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