桜の花びら舞う頃に

「じゃあ、た~ちゃん。パパ帰ってきたから、おばあちゃんは帰るね」

「うん、金曜日行くからね~」


頭をなでる祖母に、ニコッと答える拓海。


「ん? 金曜日って?」


不思議そうな表情を浮かべる悠希に、すみれは笑いながら言う。


「今週の金曜日、学校が終わったら泊まりにおいでって言ったのよ」

「うん、僕、ヒマワリの散歩するんだー!」


ヒマワリというのは犬の名前だ。

由梨が亡くなってひと月後の雨の日、拓海がアパートのそばで捨てられていた子犬を拾ってきたのだ。

悠希はアパートでは飼えないと言ったのだが、あの時の拓海は必死に食い下がった。

普段は聞き分けのいい拓海が、あそこまで必死に粘るのは珍しかった。

結局、やはりアパートでは無理なので、由梨の実家で飼ってもらうことになったのだ。


ヒマワリという名前は拓海が付けた。

きっと、由梨が拓海に口癖のように言っていた


『向日葵のように、いつも人を照らす明るい笑顔でいてね』


という言葉が胸に残っていたからだろう。


ヒマワリと出逢ってからの拓海は、本当に向日葵のような笑顔をするようになった。



(拓海とヒマワリは、出逢うべくして出逢ったのかもしれない)



悠希はそう感じていた。


「どうかしら、悠ちゃん? 主人も喜ぶし」

「はい、ご迷惑でなければ……」

「僕、迷惑かけないよ~」


拓海は唇をとがらせる。


「た~ちゃんはお利口さんだもんね~」

「ね~」


すみれと口を合わせる拓海。

悠希は拓海の顔を見つめる。

拓海も見つめ返してくる。


「……わかった。いいよ、行っておいで」


悠希は大きくうなずいた。


「本当? わ~い!」


悠希の腕の中で万歳をし、精一杯喜びを表現する拓海。

そんな拓海に、思わず笑顔がこぼれる悠希とすみれだった。




< 42 / 550 >

この作品をシェア

pagetop