桜の花びら舞う頃に
第51話『pure soul』
夜の闇が静かに広がり、辺りをそっと包んでいく。


11月の後半ともなると、夜の訪れも早いものだ。

午後5時半を過ぎた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


その闇を裂いて走る、数々のヘッドライトの光。


そのうちの1台は、大貫の運転するタクシーだった。

後部座席には、悠希とさくらの姿がある。

車内の3人の顔は、とても晴れやかなものだった。




「ねぇ、さくらちゃん……」




不意に、悠希は声をかけた。

振り向くさくらと、その視線が重なる。



「手……つないでも……いいかな?」



悠希は、優しく微笑んだ。

その言葉に、さくらの顔にも笑みが灯る。


「うん!」


手と手を握り合わせる2人。


「へへへ~」


少しくすぐったいような気がして、思わず悠希は笑った。


「ふふふっ」


さくらも微笑みを浮かべる。

そして、その頭をそっと悠希の肩にもたれてみた。




(あ……)




悠希の温もりや息づかいが伝わってくる。

それはとても力強く、2人が今を生きていることが実感できた。




胸の中に、温かなものが広がっていく━━━




その心地良さにしばらく酔いしれていると、悠希が少々ためらいがちに話しかけてきた。


「お見合い会場って、案外たくさんあるよね~。凄く探しちゃったよ」


そう言って笑う悠希。


「悠希くん……」


その言葉に、さくらの頭に疑問符が浮かんだ。



「なんで、あたしの携帯に……電話しなかったの?」


「……はっ!?」


「思い……つかなかった?」


「い、いや! ほ……ほら、お見合い中だと悪いしさ!」



携帯電話……

その便利なアイテムの存在を

すっかり忘れていた悠希だった……








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