桜の花びら舞う頃に
「あ、そこ曲がって……はい、そこの家です」



閑静な住宅が立ち並ぶ団地内の一角で、タクシーは静かに停車した。


「ここが、あたしの家なんだ」


そう言って指差す先には、青い屋根の2階建て住宅がある。

窓から明かりが漏れているところを見ると、両親はすでに帰宅しているのだろう。


「大貫さん、色々とお世話になりました!」


微笑むさくらに、大貫は首を横に振る。


「いや……お礼を言いたいのはワシの方じゃけ、気にせんでえ~よ」


大貫はその上半身をひねり、身を乗り出すように2人を見つめた。



「こんなにも純粋な気持ちになれたのは、ホント久しぶりじゃ……」


「大貫さん……」



温かい気持ちに包まれて、さくらはタクシーを降りた。


「……あ、さくらちゃん!」

「うん?」


さくらは、車内をのぞき込んだ。



「た~への報告なんだけど……クリスマス頃でどうかな?」


「クリスマス頃?」


「うん、休みの日に3人で出かけてさ……その時に言おうかなって」



悠希も、さくらを見つめ返す。



「サンタからと、俺たちからの報告と……嬉しいプレゼントが2回あるってわけ」



そう言って、悠希は笑った。



「それ、いいかも!」



さくらも嬉しそうに手を叩く。


「じゃあ、決まりだね!」

「うん!」


いつの間にか現れた、夜空に輝く月。


そこまで届きそうなくらい明るい声が、辺りに響き渡った。








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