桜の花びら舞う頃に
玲司は悠希の方を見た。


「もちろん、悠希もだぞ!」

「お、俺?」


突然、自分に話題が振られ、戸惑う悠希。


「さくらちゃんのこと、綾瀬先生って呼んでるだろ」

「あ……いや……」

「呼んでたろ」

「……うん。いや、た~の担任の先生だからさ~」


ポリポリと頬をかく悠希。


「えっ? 月……じゃなかった、悠希くんって子供さんいるの?」


麻紀が驚きの声を上げる。


「うん、1人ね」

「あたしのクラスの子なの」


麻紀に説明する悠希とさくら。


「そうなんだぁ。じゃあ、私たちと飲んでるのがバレたら、奥さんに怒られちゃうんじゃない?」


その言葉で、3人の動きが一瞬止まる。


「いや……その……」

「あ、あのね、麻紀ちゃん……ん~」


口ごもる玲司とさくら。

そして、悲しげな表情の悠希。


「あ……」


思わず口を手でふさぐ麻紀。

3人の様子から、現在の悠希には妻がいないことを悟ったのだ。


「……ごめんなさい……私……」

「いや……大丈夫。気にしなくていいよ」


笑顔を作る悠希。



(あたしも……家庭調査票を見てなかったら、そこに触れてしまったかも……)



さくらは、握り拳を胸に強く押し当てた。

家庭調査票とは、家庭から学校に提出される書類だ。

各家庭の家族構成や連絡先、連絡事項などがが記されている。

さくらは、その家庭調査票に目を通していたため、悠希と拓海の家庭のことは知っていた。


もちろん、事細かに知っているわけではないが……


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