夜嵐

4. 催眠

新大久保駅から電車に乗り一駅、高田馬場まで2分間、黒川は鞄を網に載せたあと、目を閉じていた。
病院を出てから、タバコを吸いたくて仕方なかった。
気持ちをまぎわらせるためでも、現実から逃げるためでもなかった。
ただ・・・純粋に自分の脳からの信号がタバコを吸えと指令を送る。
人間の脳とは不思議なものだ。
体に悪いものだというのに、タバコを吸いたいと考えてしまう。

近年、脳科学は急速に成長を遂げている。
どのように脳から信号が送られ、伝達をするのか。
たとえば、脳を鍛えることで頭の回転をよくするなど、脳を刺激するものが流行とされてきている。
そもそも、脳科学とはなんなのか。
心理学、電気生理学、それとも、神経科学・・・
それらを含めて脳科学だろうか。
伝達系統が解明されているなか、日本人の死亡率が高いとされる癌に対する考えを改めて見直す必要があるのではないだろうか。

電子タバコ、ニコチンを押さえる薬、喫煙所の撤去・・・
本当に必要なものは取り組みは、脳信号をコントロールすることかもしれない。
吸いたいという気持ち、口が寂しくなる習慣、自分の空間を作る道具・・・
喫煙者がほしいものは、そんなものではない。
偽り物を与えられたところで、我々は喜ばない。
偽りは偽りでしかない、真と偽の違いぐらいは誰にでもわかることだ。

では、どうあるべきなのだろうか。
本当に必要な物とは・・・
それは心理学なのかもしれない。
脳の信号を疑似的に変えられれば、人は辛い思いも、悲しい思いもしなくてすむ。
しかし、それは難しい話だ。
難しい・・・なぜなら、それは一種の催眠だからだ。
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