龍とわたしと裏庭で【初期版】
戸惑う午後


「ユキーっ!」

名前を呼ばれた白い龍が旋回する。

純白の鱗に陽射しが反射してキラキラキラキラ光る。

「あいつも速くなったな」

圭吾さんは手をかざして陽射しをよけながらわたしの龍を見て言った。

「後はわたしがどれだけ正確なタイミングで笛を鳴らすことができるかよね」

「そういう事だ」

闘龍は障害物をかわしながら速さを競う競技だ。
相手の走路を妨害するラフプレーも認められている。

龍の種類は体の色から黒、白、赤、黄、青の五種類。

わたしが選んだ白龍という種類は、飛速は速いけれど、躯体が小さい分ぶつかり合いに弱い。
できるだけ正確な飛行で逃げ切る事が要求される。

障害物の間を飛ぶ龍には次の障害物が見えない。
『龍師』と呼ばれるわたしたち人間が専用の笛の音で飛ぶ方向を指示するのだ。

笛をくわえ、長く吹く。

するとわたしの龍、シラユキは急降下して止まり木にとまった。

わたしは餌壷のふたを開け、長めのピンセットで中身を一本取り出した。


おわぁ 動いてる


顔をしかめるわたしをよそに、シラユキは差し出された好物――うごめく巨大ミミズをペロッと平らげた。

この餌付けが嫌で、たいていの女の子は闘龍をやらない。

「すごいしかめっつらだよ」

圭吾さんは笑いながらわたしの眉間のシワをのばした。


あれから、

わたしをお嫁さんにほしいって圭吾さんが言ってから何日もたつけれど

どうしようと思ったけれど、焦った自分がバカみたいに圭吾さんの態度は変わらない。


龍のいる庭で二人っきりでいる時も『お兄さん』の態度を崩さない。

あれは冗談だったんだよね

そうききたいけれど、返ってくる言葉が怖くてきけずにいる。
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