甘い声はアブナイシビレ
 拓也さんの方を見ると、笑顔で合図してくれて、私たちはみんなに気が付かれないように、そっと店を出た。
 
 知穂は、大笑いして輪の中心にいた。

「知穂って、人見知りしないからいいよね。私なんて、警戒してなかなか打ち解けない…」
「葵は、それでいいんだよ」
 頭をくしゅっと撫でつけて、優しい瞳で見つめる。
 
 その瞳。私の好きなその瞳。愛おしくて、独占したくなってしまう。
 
 ゆっくり2人で歩いたつもりなのに、もう龍一さんのマンションが見えてきた。

 この状況って、これから龍一さんの家にいくのかな・・。期待と不安が交差する。

 でも・・、龍一さんの部屋に行くって事は、あの紙袋を目にするって事で…。
 私・・、気になって聞いてしまうかも・・。
 
 明日話してくれるかもしれないのに、それを目にしてしまったら、待てずに聞いてしまうかも…。鬱陶しい女だと思われたくないのに…。
 
 あの紙袋、今は見たくない…。

「葵?」私が悩んでいる顔をしていたからか、龍一さんは不安げに私を覗きこむ。
「う・・ん?」無意識に目をそらしてしまった。

 今は、龍一さんのマンションの前にいる。

「部屋来るか?」
 たぶん、私が目をそらした理由をわかっているんだろう…、わかっていて私に聞いている。
 
 龍一さんの瞳は真剣で、それでいて、少し戸惑っているようにも感じられた…。

「今日は帰るね…」このまま帰っても、寝られない気がしたけど、明日がある…。
 今、部屋に行ったとしても、いい方向にいかない・・気がする…。

「葵は、我慢の娘だね」私の頭をくしゅっと撫で上げ、
「そんな葵が、オレは好きだよ」
 脳内が沸騰するほどの、最強ボイスを私の耳元に吹き掛け、瞬く間に体中を龍一さんに支配された。

 恍惚している私を見て、
「いい娘だ。葵は、オレの声に服従する、まるで奴隷だな」
 またあの低音ボイスで脳内を犯され、酷い言葉なのに甘く感じてしまう私がいた…。
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