甘い声はアブナイシビレ
「葵、昨日はごめんねー」仕事の合間に、知穂が謝って来た。

「ん? なにが?」知穂がトイレに誘う仕草をしたので、仕事を中断してトイレへと向かう。

「私、拓也さんたちと夢中で話しちゃって、葵とあれから飲めなかったし・・」
 化粧直ししている私の様子をうかがいながら、化粧ポーチから口紅を取りだす。

「いいよ、構わないよ。私も、龍一さんとたくさん話せたしね」昨日のことを思い出して、思わずニヤける。

「そっかー、よかった。私さ、昨日葵に変なこと言っちゃったかな…って反省してたんだ…」
 ふぅー。知穂はため息をついて私を見た。

「大丈夫よ。それに…、紙袋のことは今日話してくれると思うんだ」
 知穂の瞳が大きく揺れたのを感じたけれど、知穂はすぐに視線を鏡に移して、口紅を塗り直した。

「龍くん、紙袋のこと話すって? 他には…?」不安げな顔を浮かべる。

「他に? う・・ん・・、紙袋のことも、ハッキリ話すとは言ってないんだけど、なんとなくそう思ったって感じで…」知穂の表情と言い方が引っかかって、
「知穂?」様子をうかがう。

「ほらっ、龍くんって恋愛のこと一切話さないから、どんなこと話すのか、ちょっとした興味よ」笑って、口紅をしまった。

「私は今日ね、昨日のメンバーとまた飲み会。また拓也さんに会えるなんて、嬉し過ぎるよ。拓也さんのこと本気になりそう」そう言って、頬を押さえる。

「拓也さんといると安心するの。異性としてドキドキするんだけど、それだけじゃないっていうか・・、拓也さんのためなら何でもしてあげたいって思うし、近づくとキュッて胸が苦しくなって・・、でもその締め付けもすごく心地よくて…」うっとりした顔で遠くを見つめる。

「うんうん。わかる」知穂に同感すると、
「早く、仕事終わんないかねー」2人でため息をついて、トイレから出た。
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