甘い声はアブナイシビレ
 はぁ…。
 気合いを入れて、チャイムを鳴らす。

 ガチャ。

「昨日は、よく寝られたか?」クッ。
 意地悪な笑い方で、私を見下ろす。

「おかげ様で、爆睡しました!」あの酔い方はきっと、お酒じゃなくて、あの声がいけないんだな。

「だったらよかった」
 私の頭をそっと撫でて、優しい瞳を覗かせる。
 
 きゅーん。

 この瞳、この瞳が、龍一さんのこと気になった理由。
 
 普段いつも睨んでいるようだから、この瞳をみると心臓がドキドキする。

 でも、その甘いドキドキは長くは続かなくて、違った意味のドキドキが私を押しよせてきた。
 
 電車に乗っている間中、龍一さんは妙に無口で、何かを考えているようにも、決心しているようにも見えて、私も次第に無口になった。
 
 何を考えているの?
 
 今日の話しって、龍一さんにとって、私にとって、悪い事に思えてくるよ。

 話しって、紙袋の人のことかな…。
 紙袋の人…。
 龍一さんにとって、過去の人ではないの?
 まだ引きずっているの?

 大事にしまってあるんだもの、忘れられない人なんだよね…。

 考える度に胸が苦しくなる。

 
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