甘い声はアブナイシビレ
 立ち上がって、龍一さんの元から離れなきゃ…。

 知穂と・・龍一さんが・・・? なに言ってるの・・・。
 襲った……?
 なに、いってるの…。

 目に涙が溜まって、よく見えない・・。私、なんでここにいるのかな…。

「葵、オレを見ろ! 葵!」
 両手で私の頬を包み込んで、龍一さんの方を向かせる。
 
 その瞬間、私の目から涙が流れ落ちた…。

「なんで? なんでそんなこと言うの? なんで?」わざわざ言うの…? 言わなくても良かったじゃない…。

「なんでそんなこと言うのよー!」
 
 龍一さんを振り切って、走りだしたかった。龍一さんの声も言葉も何もかも聞きたくなかった。顔も見たくなかった。

 なのに、逃れることも出来ない。

「放して! 放して!!」
 強く抱きしめて、私の自由を奪う。逃げることも出来ない。

「いやー!」
 ワァーーーー!!
 今まで出したこともない大きな声で、私は龍一さんの胸の中で泣いた・・。
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