甘い声はアブナイシビレ
「知穂がオレに普通に接してくれてるのに、本当に救われてる」

 優しく力なく笑った龍一さんを見て、それがあったからこそ、知穂のことを一層大切にしているんだ。って、わかった。

「オレ、あの時、駈け出してお袋の墓に・・、ここに来たんだ」
 ポケットから、あの紙袋を出して私に渡す。

「えっ、見ていいの?」
 大事にしまっていた、知穂が言っていた、龍一さんが好きな人の…。

 袋から取り出すと、中から白いレースのハンカチが出てきた。

「こ・れ・・」見覚えのあるハンカチに、微かに記憶がよみがえる。

「覚えてるか? 葵が、オレに渡したハンカチだよ」

「えっ…。これ、おばあちゃんのお葬式の時に使ったハンカチ…」
 おばあちゃんが私の名前を縫ってくれたこのハンカチで、おばあちゃんを見送ったんだ…。

 なんで、龍一さんが私のハンカチを?

「オレがお袋の墓の前で、死のうと考えていた時に、少し離れた墓の前で『泣かないで悲しくないのか、冷たい姉貴だ』弟に責められながら、それでも泣かずに凛と立つ女を見たんだ」

 そう言って、龍一さんは、私の視線を捕えて続ける。

「『私が泣いたら、おばあちゃんは天国に行けない。自分が精一杯生きないと、心配したままで天国に行けない。悲しみで前が見えなくなってどうするの。私は自分の道を、前をしっかり見て生きていくだけ。それが、おばあちゃんが望んでいることだと思う。前を向いて歩くのに、今、涙は流せない』そうキッパリ言ったその女の姿が、神々しくて、スゲー綺麗だと思った」
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