硝子の破片
高校卒業と同時に実家を飛び出してから、そうやって暮らしてきたのだ。


バイト先のホストクラブで浴びるように酒を飲むより、何倍も楽な作業に思えた。


無論、妻の理恵子はこの事実を知らない。


会議で遅くなると電話を入れては、女社長の臭い股を嗅いでいるとは夢にも思っていないだろう。


理恵子と結婚したのは社会人二年目の春だった。


彼女は妊娠三ヶ月目になろうとしていた。


つまり、俗にいう出来ちゃった結婚をしたのだ。


結婚に抵抗がなかったと言えば、嘘になる。


正確には父親になる自信がなかった。


自分が子供を育てるなんて、有り得ない。


常日頃、そう思っていたのだ。


だが現在こうして自分は所帯を持っている。


『最初から父親になるなんて無理よ。子供の成長と一緒に、だんだん父親になっていくもんじゃないのかな』と理恵子は言った。


その言葉が後押しとなり、晴れて二人は籍を入れたわけになるのだが、脅迫観念に捕われる時がある。
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